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京都・清水寺
成就院の
日本庭園。

一般公開はされていないが、
この日、特別に入れていただいた。

2007年9月撮。




先月、ある方から「からすみ」をいただいた。「からすみ」って皆さんご存知ですか? 三河のこのわた(ナマコの腸など内臓の塩辛)、越前のウニなどとともに日本三大珍味のひとつです。酒飲みにはたまらんほどの珍味です。形状が中国の墨に似ていたことから「唐墨・カラスミ」と名づけられたそうです。

「からすみ」の正体ですが、魚の「ボラ(鰡とも鯔とも書く)」の卵巣を塩漬けして干したやつです。塩漬けなので塩辛く、一度にはたくさん食べるものではない。

では、いただくことにしよう。ビールには合わないだろう、これはやはり日本酒だろうと思い、純米酒の冷やを用意した。さっそく、からすみを薄くスライスし口にいれる。最初、タラコのような味がして、あー、やはり魚の卵だなあとも思うが、やがてチーズのような濃厚な味わいが広がる。といっても乳製品のようなしつこさもない。

ふたたび、スライスしたそれを口に運ぶ。そして、純米酒を一献。あ~、まろやかなお酒とともにからすみがまったりととけていくよー。またもや、一献。ツーッ。あー、生きててよかったなあと、ぼくは思いましたね。(大袈裟やな)

ところで、「ボラ」の身のほうを食べたことありますか。基本的には海水魚だが汽水域(河口など淡水と海水のまじりあったところ)や川にも生息するため、ふつう「ボラの身は臭い」と思いますよね。

「ボラ」という名前のひびきもまずそうですしね。代わりに、「ポラ」だったらどうだろう。アマゾンなどのピラニアみたいでどうもおそろしそうだなあ。「ホラ」はどうか。ハラペコなときに、「ホラ」って突き出されてもなんだか哀れを感じるしなあ。やはり、「ボラ」でいいか。このように、あっちがいいか、こっちが得かなどと、形勢をジーっと見て考えることを、「ボラが峠をきめこむ」という。(ウソです。)

さあこの「ボラ」ですが、きれいな海でとれたやつは実は非常にうまいんですね。10数年前、徳島の鳴門の海でボラ釣りをしたことがある。40~50cmの大きいやつが何匹か釣れた。そのとれたてを近くの知り合いの所で、すぐに刺身にしてもらった。白身で、血合いのとこが鮮やかなピンク色だった。タイと見まがうほどの美しさで、味のほうも、「これはタイですよ」と出されたらわからないほどのおいしさだった。

さて、みなさん、この「ボラ」が出世魚だというのをご存知でした?成長により名前が変わる魚でよく知られているのは、「ブリ」や「スズキ」ですよね。この「ボラ」もそうなんです。以下のように変わります。

2~4cm 「ハク」
4~10cm 「オボコ」・・・・幼い様子などの「おぼこい」の語源
10~30cm 「イナ」・・・・イキな若い衆の「いな背」の語源。若い衆の髷(まげ)の青々とした剃り跡をこの「イナ」の青灰色の背中にみたてた
30~40cm 「ボラ」
40~80cm 「トド」・・・・トドのつまり。行き着くとこまでいった

ときどき思うのですがね、このように「ブリ」や「スズキ」や「ボラ」でも出世するのに、ぼくはなかなか出世しないなあ、って。
でもですよ、彼らは出世すればするほど、人間においしいおいしいと食べられてしまうんですよね。

出世したって敵なし、ではないのですね。人間界でもそうですよね。「出る杭は打たれる」ってことわざもありますしね。
何ごともほどほどがいいのだろうなあ。