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お香を浴びて歓喜、随喜する外国人達。
中央の男性は韓国語をしゃべっていた。
東京浅草の浅草寺(せんそうじ)にて。
2009.7月撮





街を歩いていて、中華料理屋さんの店先にこの「冷やし中華始めました」の張り紙をみつけると、いよいよ夏だな、と感じる。中華料理屋といっても高級なところなどではなく、街中の少し小汚い店で、中華料理と書いているものの、中に入ると中華以外にいろんなメニューが壁いっぱいに貼られていて、定食ものも充実しているような店のことです。

ぼくこんな店大好きです。天七に「桂楽」という店があった。ここはまさしく理想の中華屋で、壁に所狭しとメニューが貼られ、昼は会社勤めの人たちで賑わい、夜は居酒屋と化す。ギョーザセットというのがあり、生ビールの大ジョッキとギョーザ2人前で800円だった。しかし、残念ながら数年前に店を閉じている。こういう店、最近、とみに少なくなっているのがとても淋しい。

さあ、冷やし中華(以下冷や中)。僕もこれには目がない方だ。スーパーへ行くとこの時期、2食入りで生めんタイプのものがよく売られている。ぼくは一人でこの2食分を茹でて食べる。もちろん、錦糸卵やハムやキュウリなどもせん切りにして用意しておく。

2食分をお皿に盛ると、さすが大盛り、富士山のように盛り付けたりもできてとてもうれしい。ラーメンだとハフハフしてツルツルあるいはズルズルと食べるのだが、冷や中の場合はなぜかモサモサとなる。そして、誰に横取りされるわけでもないのに急いで、しかも具と麺を一緒に大量に口に入れてしまい、必ずノドに詰まらせて、目をまるくしてあわてて水を飲む。これを数回繰り返して最後までたいらげるのが冷や中2人前の正しい食べ方である、と魯山人も言っていたかどうかは知らない。

次に、夏を感じさせる食べ物といえば、そうめんである。氷水に泳ぐ白い糸はとても涼やかである。冷麦(ひやむぎ)というのもある。どう違うのか。

そうめんは中国生まれ。冷麦は日本生まれ。原料はどちらも小麦粉。冷麦はこれに水と塩を加えて生地を作る。そうめんは生地をのばすために油を使い、1年以上寝かして熟成させる。冷麦は油を使わず、のばした生地をそのまま細く切って1日乾燥させるだけ。うどんと同じ。従来、小麦粉を練った生地を細く切り、茹でて食べるものを「切り麦」と呼んでいた。これをあたためて食べるのを「饂飩(うどん)」、冷やして食べるのを「冷麦」と区別していた。

子供のころ、そうめんを食べる前に必ず「アーメン、ソーメン、ひやソーメン」と言って食べていた。当時、まわりの子供はみんなそうだったと思う。この前、ねじめ正一さんの本を読んでいたら、彼もそうしていたらしい。ねじめさんは東京の人なので、昔はたぶん日本全国の子供たちはそのように言ってから食べていたんだろう。

ところで、京都の「夏のスタミナ源」といえば鱧(はも)である。京都は海がないため昔は新鮮な魚が手に入らない。はもは暑いとき遠くから運ばれても活きがよくてピチピチしていた。すっぽんと同じかみついたら離さない生命力。はもは「食(は)む」「噛む」に由来している。ビタミンAが夏バテ予防となる。「骨きり」は1000本以上ある骨を、皮1枚残して細かく刻む職人技。3㎝の身を24回も刻むらしい。

一方、夏の飲み物といえば断然ビールだが、子供のころはラムネだった。当時、家にお風呂がなかったので毎日銭湯に行っていた。友達どうしで時間を決めていっていたので、銭湯は僕たちのサロンだった。その帰りに、みんなで飲んだのがラムネ。ビンの中のビー玉を専用の栓抜きで下に落とすと泡がシュワシュワッ。上手にやらないと吹きこぼれてしまい、おっとっと、なんて言って口をビンの口にあわててもっていかないといけない。ビールの泡がこぼれそうになっておっとっとをするオッサンの下地は、この少年時代のラムネからできあがっていたわけだ。

17世紀、イギリスで生まれたこのラムネはレモン果汁の入った飲み物「レモネード」がなまったもの。日本にやってきたのは幕末。ペリーの黒船にもたくさん積まれていた。昔の製法は、レモン果汁に含まれる「クエン酸」と「重曹」を化学反応させて「炭酸」を作り出していた。

さて、この夏は節電の影響で、冷やし○○などのクール関係が売れているらしい。冷やしおでん、冷やしかつ丼などもあり、とても気になる。山形県の美容院や理髪店では毎年夏になると「冷やしシャンプーはじめました」というノボリがでるそうだ。何を冷やしもらってもけっこうだが、景気だけは冷やさないでほしいものだ。