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このコーナーも久しぶりである。みなさんはドジョウなんて食べたことありますか?ウナギやアナゴは専門店に行かなくてもスーパーなどで普通に販売しているが、ドジョウはちょっとみかけませんよね。実は、日本では江戸時代初期のころからドジョウ料理は大衆にはとても馴染んでいた。ただ、その食べ方は丸煮であり、かば焼きや卵とじなどはずっとあとのことだった。

江戸中期の本『百魚譜』には「泥鰌汁(どぢょうじる)は酒の上に赤味噌を程よく調じて、唐辛子をくわえたるこそよけれ」と調理法が書かれている。『守貞漫稿』には、「昔は丸煮といひて全體のまま臓腑も去らず、味噌汁に入れて之を泥鰌汁といふ。また、全體のまま醤油煮付けにしたるを丸煮といふ」とある。この頃から江戸市中はドジョウ料理の専門店だらけであったらしい。

ぼくも3年前このドジョウ料理を生まれて初めて体験した。場所は東京。向こうに住む友人に連れられて入ったお店が、台東区駒形にある『駒形どぜう』だ。1801年創業とあるから、200年以上の歴史がある老舗である。初代は武蔵国出身の越後屋助七という人で、「どぢょう」と四文字では縁起が悪いと奇数文字の「どぜう」にした。

一番人気は「どぜうなべ」でぼくたち二人は「どぜうなべ定食」2500円を注文した。鍋といっても、深鍋ではなく鉄板型の一人用の浅い鍋。その上にたくさんのドジョウさんたちが所狭しと寝そべっている。もちろん丸煮なので、頭からしっぽまで全部である。その上に割り下をかけ、刻みネギをてんこ盛りにし、火にかける。出来上がるまで、定食についてきたこんにゃくと豆腐の田楽やお漬物を肴にビールをグビグビとやりながら、久しぶりの友人との会話を楽しむ。彼は役者をやっているので、舞台のことやテレビ界の裏話などを聞く。こちら一般人としては興味のそそることばかりでおもしろい。

さあ、そろそろグツグツ煮立ってきたようだ。お好みで七味唐辛子や粉山椒をふる。では、いただきます。まずは一匹だけ箸にとり、ドジョウの顔を見つめる。つぶらな瞳なので少し可哀そうにも感じたがわざわざ食べに来たんだから仕方がない。ドジョウ初体験だ。こわごわと口に入れる。食感はそうですねえ、エースコックのワンタンメンのワンタンを食べたような、ビョロ~ンといった感じですかね。下ごしらえしてあるので、生臭くもそれこそ泥臭くもない。

次は数匹いっぺんに口入れる。噛むと濃厚な味が広がる。タレは少し甘辛いが大量のネギと薬味の七味や山椒がそれを中和してくれて、とても美味である。骨ももちろんやわらかい。配膳のおねえさんに「このドジョウはどこの産ですか?」と聞くと「大分県の湯布院のきれいな水で育ちました」とのこと。遠路はるばるご苦労さん。大分のドジョウを大阪のオッサンが東京で食べた、というわけである。

ドジョウ(泥鰌)・・・コイ目ドジョウ科。カルシウムはウナギの10倍。そして、ビタミンDが豊富。いくらカルシウムをとってもこのビタミンDをとらないと体内には吸収されない。

次に、タンパク質が豊富。ドジョウのタンパク質はウナギと比べると、脂肪が少なくカロリーは3分の1。また、ドジョウには内臓を温め、体の余分な水分を取り除き解毒する作用がある。表面のネバネバとしたぬめりの正体はコンドロイチンで、血液をきれいにし、細胞の働きを活発にしてくれる。シミやシワを防ぐコラーゲンも含まれている。まさに、ドジョウは滋養強壮の食べ物なのである。